騎手の一分 ~業界のルールをどう決めるかで全てが決まる~
『騎手の一分 競馬界の真実』 藤田伸二 著
競馬界で長年トップジョッキーの一人として活躍している藤田伸二騎手による著書。率直な思いがそのまま書かれた本でとても面白い。
外から見ていると、競馬界の内部のことは全然わからないが、競馬界のルールが変わったことによって騎手の成績も変わってきたという。たとえば、誰もが知っている武豊騎手。ここ数年は成績が最盛期の時に比べると、だいぶ落ちてしまっている。その理由の一つがルール変更だという。従来は、騎手個人が厩舎をまわって営業をして強い馬の騎乗依頼を獲得してきた。しかし、ルール変更があり、騎乗依頼はエージェントを通して行うこととなり、各騎手はエージェントと契約しなければいけなくなった。つまり、騎手個人で厩舎から騎乗依頼を受けることができなくなった。。。このルール変更が業界の力関係を変えた。エージェントの力は強くなり、簡単に乗り替わりも行われるようになり、外国人ジョッキーの依頼も増えた。その結果、若手騎手への依頼は少なくなっているし、騎手の数も激減している。。。
この本、競馬界に対しての提言という形で書かれているが、競馬界に携わっていないものでも参考となる部分が多い。ここでの学びは、業界の「ルール」を変更すると、そのルールの元で動いている人たちは自然にその人たちにとって最適な方法をとるようになっていく、ということだ。だから、大元となるゲームのルールを変更すると、徐々に時間をかけて影響が出てくる。その典型例である。競馬界ではそれが悪い方向に進んでいってしまっているようだ。だが、いい方向にルール変更すれば、徐々に良い形にも向かっていくだろう。それを出来るのはルールを変更できる人たち。ルールのもとでがんばる人たちは、ルールを変更させることは難しいし、個々の最適解に邁進するのは仕方がない。ルールを変更できるところにいる人たちの責任の重さ、というのを感じさせてくれる本だ。