急激に伸びていくようなベンチャー経営を追体験できる本としてオススメするのが以下の二つだ。どちらも会社をつぶしてしまった話。豪快に進んで会社が成長していく部分とそこからの転落。ほとんどのベンチャー企業は、その急成長の部分をまず味わうことは出来ない。だから、純粋にすごいと思う。世間から着目されるほどのアイディアと実行力、そして資金調達力。色んな意味でマネをすることは容易ではない。
「社長失格―ぼくの会社がつぶれた理由」
「私、社長ではなくなりました。 ― ワイキューブとの7435日」
「社長失格」は1996年頃のイパーネットという会社に関する話。「プッシュ型ダイレクト広告システムを利用した無料インターネット接続サービス」という当時では画期的なシステムを思いつき、資金調達し、実行にうつす。そのアイディア自体は面白いものであり、時代もマッチしていたこともあり数十億円を調達することに成功。あの夏野剛氏が東京ガスの後に働いていた会社だ(その後、倒産する3か月程前にNTTドコモにいくことになる)。そんな夏野氏の話もたくさん出てくる。どういう風にスケールの大きなビジネスが進んでいくのか、追体験することが出来る。このビジネス、スモールスタートではないため、巨額の負債を抱えてのスタートとなる。巨額の負債を抱えている場合、新規事業が事業計画通りに進んでいかないとキャッシュで苦しくなる。しかし、うまくいっていないときはお金を借りることができない。そうすると・・・・
ワイキューブは、2007年5月期には46億円の売上があった企業。ただし、その時の経常利益は1億円程度。その後、15億円まで売上は減少し破綻となる。人材系市場全体で下がっていたため、それは仕方がない面もある。彼独特の考えがあるからこそ、成功もあり、失敗もあったのだと思う。バーを作ったり部屋を豪華にしたりなどでマスコミの注目を集めるPR戦略は結果的にうまくいっている。だが、新宿の高層ビルに引っ越して、すぐに撤退することになるなど行き過ぎた面もある。攻めに出ないと伸びないが、やみくもに攻めていてもダメだということがわかる。
一か八か、大きく注目される賭けをしたいのか、それとも着実にやっていくことをしたいのか。経営者の性格が出る部分。この2冊とも経営者はいけいけなタイプ。だからこそ調子が良いときはどんどん大きくなる絵が描け、注目され業績も伸びる。一方でうまくいかなくなったり、外部環境が少し変化すると、財務面でのリスクを大きく背負っているので急激に危機を迎える。こういった危機を回避するために、スモールスタートで事業を始めていくというのは鉄則だろう。事業においては、選択と集中を行うこと。また、常に外部環境がどう変化するのか、そのリスク要因を頭に入れておく必要がある。例えば自分たちの場合は、今の段階では可能性はものすごく低いが、世の中必要な言語は英語ではなく中国語になったら?であったり、高性能な即時全自動翻訳機械が出来たら?であったりするかもしれない。そういった外部環境の変化も敏感に察知し、次の一手が打てるようにしておく必要性が感じられた。
これらの2つの例より、もっとスケールの小さいバージョンではあるが、どん底を経験し、でもそこで潰れず復活した会社、という本としては、「ウィルゲート 逆境から生まれたチーム」がオススメだ。こちらは、もう少しリアルに感じることが出来ると思う。こういった本で実際の現場をシミュレーションし、自分ならどう動くのかを考えるのは、良いトレーニングになる。