リバース・イノベーション ~新興国の名もない企業が世界市場を支配するとき~
「リバース・イノベーション」
Vijay Govindarajan and Chris Trimble 著
イノベーションは一般的に先進国から新興国に流れる。そのため、先進国の多国籍企業がモノを新興国に売ろうとする時、ローカライズをして売ればよいと考えられていた。すなわち、グローカリゼーションでは、富裕国の顧客向けに開発されたグローバル製品にわずかな修正を加え、主に機能を落とした低価格モデルを輸出するだけで新興国市場を開拓できると考えられていた。しかし、これは誤りであり、富裕国で有効なものが自動的に、顧客ニーズがまったく異なる新興国市場でも幅広く受け入れられるわけではない。逆に新興国で最初に採用されたイノベーションが、富裕国に流れていくというリバースイノベーションが起こっているのである。そんな実例が本書では紹介されている。
例えばゲータレード。これは、インドにおけるコレラ患者への治療法が起源になる。それがゲータレードへと進化していった。その他にもコンピューターのマウス、メキシコにおけるP&Gの女性用ケア用品、トラクター、インドにおけるGEの心電計など多数の例が出てくる。どのようにして新興国でイノベーションが発生し、それが富裕国に流れていったかを垣間見ることができる。
富裕国と新興国では5つのニーズのギャップがある。性能、インフラ、持続可能性、規制、好みのギャップである。新興国と富裕国ではここの差が激しい。そのため、白紙状態で考える必要がある。新興国は価格が安くて市場としては小さい、そう思いがちだが新興国にはとてつもなく大きなチャンスがある。また、新興国でイノベーションを行う企業が勝ち、単に輸出する企業は負ける。さらに、イノベーションで負けると、そのイノベーションが富裕国に流れ、さらなる大きな痛手を食らうことになる。
富裕国ではニーズが小さすぎて無視されていた取り残されていた市場が、新興国ではマス市場である。そのため、新興国で起きたイノベーションが富裕国の取り残された市場に流れ、それが次第に性能を上げ拡大して市場を占有していく。そのような流れが起きるのがリバースイノベーション。
本書では、大企業がリバースイノベーションを可能にするマネジメント体制、組織体制についても論じられている。まだ新しい考え方ではあるだろうが、とても興味深い。少々難しい部分も多いが、面白い本。